01この記事でできるようになること
Webマーケターとして転職する前に、引き継ぎ資料と実績記録をどう整理すればよいかが分かります。あわせて、次の職場や職務経歴書に持ち出してよい情報と、持ち出してはいけない情報の線引きも扱います。
「実績記録」という言葉を、勤務先の非公開データを書き写す作業だと誤解しないことが、この記事のいちばんの目的です。実績記録は、自分が行った判断とプロセスを、数値そのものに頼らずに残す作業です。
02前提(対象読者・必要な準備)
対象読者は、Webマーケターとして転職を予定しており、これから退職の準備を進める人です。在職中の情報の扱いに関する内容のため、まだ退職を決めていない段階でも早めに読んでおくことをおすすめします。
準備するものは3つです。今の勤務先の就業規則、入社時に交わした誓約書や秘密保持契約書、そして自分が担当した業務の一覧です。就業規則や誓約書が手元に無い場合は、人事担当に確認して入手してください。
この記事は、契約や法律の解釈を断定するものではありません。就業規則や契約書の内容は会社ごとに異なります。最終的な判断は、勤務先の規定と、必要に応じた専門家への確認に委ねてください。
03手順1|持ち出してよい情報と、持ち出してはいけない情報を先に線引きする
引き継ぎと実績記録の準備を始める前に、最初にやるべきことがあります。何を残し、何を残さないかの線引きです。この順番を逆にすると、後から情報を取り除く作業が発生し、二度手間になります。
持ち出してよい情報の目安は、自分が実際に行った判断のプロセスと、そこから得た学びです。「どんな仮説を立てて、どう検証し、何が分かったか」という思考の流れは、勤務先の非公開データを含まなくても説明できます。
持ち出してはいけない情報の目安は、勤務先が非公開としている数値そのものと、顧客の個人情報、独自のツールやテンプレートの中身です。売上額・広告費・コンバージョン率といった具体的な数値は、多くの場合、勤務先の非公開情報にあたります。
一般に、在職中に得た営業上の秘密情報を無断で外部に持ち出す行為は、不正競争防止法が定める「営業秘密」の考え方に触れる可能性があります(出典:経済産業省)。就業規則や誓約書に情報の持ち出しに関する規定がある場合は、その内容が優先されます。
判断に迷う情報については、自己判断だけで済ませず、就業規則の該当箇所を読み直すか、人事担当に確認する方法をおすすめします。確認した内容は、後述する実績記録の作成方針にも反映させてください。
04手順2|担当業務を「プロセス」と「数値」に分けて棚卸しする
線引きの基準が定まったら、担当した業務を棚卸しします。このとき、業務の内容を「プロセス」と「数値」の2つに分けて書き出すことが重要です。
プロセスとは、何を目的に、どんな仮説を立て、どう検証し、何を改善したかという思考と行動の流れです。数値とは、売上・広告費・コンバージョン率など、勤務先の非公開情報にあたりやすい具体的な数字です。
| 区分 | 内容 | 持ち出しの可否の目安 |
|---|---|---|
| プロセス | 仮説・検証・改善の流れ | 自分の言葉での説明は持ち出しやすい |
| 相対的な変化 | 「改善前と比べてどう変わったか」の傾向 | 会社の規定次第で判断が分かれる |
| 具体的な数値 | 売上額・広告費・コンバージョン率そのもの | 非公開情報にあたりやすく持ち出しにくい |
| 顧客の個人情報 | 氏名・連絡先・取引履歴 | 持ち出せない |
棚卸しの段階では、数値を書き出すこと自体は問題ありません。整理した数値をそのまま外部に持ち出すかどうかは、次の手順で改めて判断します。
05手順3|実績記録は「相対的な変化」と「プロセス」で書く
実績記録を作るときは、具体的な数値の代わりに、相対的な変化とプロセスを軸にすることをおすすめします。たとえば「月商1,200万円の広告を運用した」ではなく、「複数の訴求軸を検証し、成果の伸びにつながる改善を重ねた」という書き方です。
具体的な書き換えの例をいくつか示します。「コンバージョン率を3.2%から4.1%に改善した」という書き方は、多くの場合、勤務先の非公開データを含みます。「複数の改善施策を試し、コンバージョン率の向上につなげた」という書き方であれば、数値そのものを含みません。
数値を完全に避ける必要が無い場面もあります。勤務先の許可を得られた場合や、すでに社外に公開されている情報であれば、具体的な数値を使うこともできます。判断に迷う場合は、数値を伏せた表現を基本形にしてください。
実績記録の作例(架空の例・複数の書き方を組み合わせた通し例)
ここまでの考え方を1つの記録にまとめた作例を示します。架空のEC担当者の実績記録で、実在の企業・個人のものではありません。
【担当業務】ECサイトの広告運用と、サイト内のコンバージョン改善を担当。 【プロセス】広告からの流入者がカート画面で離脱する割合が高いという仮説を立て、離脱の原因を行動データから検証した。検証の結果、決済画面の入力項目が多いことが離脱の一因と判断し、入力項目を必要最小限に絞る改善を提案した。 【相対的な変化】改善の実施後、カート画面から決済完了までの離脱率は、改善前と比べて明確に低下した。広告経由の売上構成比も、改善前の水準を上回って推移した。 【学び】数値そのものよりも、離脱の原因を仮説から検証へと進める手順が、他の案件にも応用できる考え方だと分かった。
この作例では、具体的な離脱率やコンバージョン率の数値をあえて書いていません。勤務先の非公開情報にあたる可能性が高いためです。「明確に低下した」「改善前の水準を上回った」という相対的な変化の表現に置き換えることで、数値を出さずに成果の方向性を伝えています。手順1で確認した線引きと、手順3の書き換え方を組み合わせると、この作例のような記録になります。
実績記録は、転職活動における職務経歴書やポートフォリオの材料になります。数値を伏せた書き方でも、判断のプロセスを具体的に説明できれば、採用側に伝わる記録になります。具体的な翻訳の手順は『職務経歴書に書くWebマーケター未経験者の実務経験の翻訳方法』で扱っています。
06手順4|引き継ぎ資料は「後任が困らないこと」を基準に作る
引き継ぎ資料は、実績記録とは目的が異なります。実績記録が「自分のための記録」であるのに対し、引き継ぎ資料は「後任のための資料」です。この違いを意識すると、何を書くべきかが整理しやすくなります。
引き継ぎ資料に含めるべき内容は、担当業務の一覧、定例の作業とその手順、関係者の連絡先、進行中の案件の状況です。判断のプロセスよりも、後任がそのまま実務を引き継げる具体性が求められます。
引き継ぎや退職に関する一般的な考え方は、厚生労働省が公表するモデル就業規則にも記載があります(出典:厚生労働省)。引き継ぎ資料は勤務先の資産として会社に残す前提の書類で、実績記録のように社外へ持ち出す想定では作りません。この違いを混同すると、社外秘の情報を実績記録の側に書き写してしまうミスが起きやすくなります。
07手順5|作成した記録を退職前にダブルチェックする
実績記録と引き継ぎ資料を作り終えたら、退職前に見直しの機会を設けてください。実績記録に、具体的な数値や顧客情報が紛れ込んでいないかを確認する作業です。
チェックの視点は2つあります。1つ目は、実績記録に非公開情報が残っていないかという視点です。2つ目は、引き継ぎ資料に、後任が困らないだけの情報が揃っているかという視点です。
可能であれば、実績記録の内容を上長や人事担当に一度見てもらうことをおすすめします。第三者の目を通すことで、自分では気づきにくい非公開情報の混入を防ぎやすくなります。
08つまずきポイント(失敗例つき)
準備の過程でよく見られるつまずき方を、いくつか紹介します。
1つ目は、実績記録に具体的な売上額や広告費をそのまま書いてしまう型です。数値のインパクトを優先するあまり、非公開情報の線引きを後回しにしてしまうケースです。
2つ目は、顧客名や取引先名を、実績の説得力を高めるために書いてしまう型です。顧客の個人情報や取引情報は、多くの場合、持ち出してはいけない情報にあたります。
3つ目は、引き継ぎ資料と実績記録を1つのファイルにまとめてしまう型です。用途が違う2つの資料を混ぜると、社外に持ち出すべきでない情報が実績記録の側に混入しやすくなります。
4つ目は、退職直前になって初めて実績記録を作り始める型です。時間が足りず、プロセスの記述が薄いまま、数値だけを書き写して済ませてしまう原因になります。
5つ目は、就業規則や誓約書を確認しないまま、自己判断で線引きをしてしまう型です。会社によって規定の内容は異なるため、自己判断だけに頼ると、意図せず規定に反する可能性があります。
09完了の確認方法(できたかどうかの判断基準)
実績記録が完成したかどうかは、書いた内容を「勤務先の名前を伏せても意味が通じるか」で確認する方法が有効です。意味が通じない場合、具体的な数値や固有名詞に頼りすぎている可能性があります。
もう一つの確認方法は、書いた実績記録を、今の勤務先の同僚が読んでも「非公開情報が書かれている」と感じないかを想像することです。少しでも不安がある場合は、該当箇所を書き直してください。
引き継ぎ資料については、後任の視点で「これだけで業務を再開できるか」を確認してください。判断のプロセスではなく、実務の具体性が足りているかどうかが基準になります。
準備が整ったら、次は職務経歴書やポートフォリオへの反映に進みます。副業の実績を反映する考え方は『副業の実績をWebマーケター転職の職務経歴書へどう反映するか』で扱っています。施策の根拠の見せ方は『施策の根拠をどう見せるか、Webマーケター転職のポートフォリオ術』で扱っています。転職準備全体の流れは『未経験からWebマーケターへ転職する準備、何をどの順で揃えるか』を参照してください。
10FAQ
実績記録に売上額を書いてはいけませんか
多くの場合、具体的な売上額は勤務先の非公開情報にあたります。数値そのものより、判断のプロセスや相対的な変化を中心に書く方法をおすすめします。
顧客名を実績記録に書いても大丈夫ですか
顧客の個人情報や取引情報は、持ち出してはいけない情報にあたります。実績記録には、業種や規模など、個人や企業が特定されない範囲の情報にとどめてください。
引き継ぎ資料と実績記録は別々に作るべきですか
はい。引き継ぎ資料は後任のための社内資産、実績記録は自分のための社外へ持ち出す記録という、目的が異なる書類です。1つのファイルにまとめると、非公開情報が混入しやすくなります。
誓約書に何が書いてあるか分からない場合はどうすればいいですか
人事担当に確認することをおすすめします。誓約書や就業規則の内容は会社によって異なり、自己判断だけで線引きをすると、意図せず規定に反する可能性があります。
実績記録はいつから作り始めればいいですか
退職を決めた直後から準備を始めることをおすすめします。直前にまとめて作業すると、プロセスの記述が薄くなり、数値だけを書き写してしまうリスクが高まります。
転職先の面接で、具体的な数値を聞かれたらどう答えればいいですか
非公開情報にあたる数値は、答えられない旨を正直に伝えることが一般的な対応とされています。代わりに、相対的な変化やプロセスを具体的に説明する準備をしておいてください。
相対的な変化の書き方が思いつきません
「改善前と比べてどう変わったか」を、割合や順位、傾向の言葉で表現する方法があります。具体的な翻訳の考え方は、この記事の手順3で紹介した職務経歴書の翻訳記事もあわせて参考にしてください。