01この記事でできるようになること

提案書を作るとき、発注側がどこを見て採用の可否を判断しているかが分かります。課題整理から費用提示まで、情報をどの順番で配置すれば伝わりやすいかも整理します。

この記事は、提案書を出せば通過するという内容ではありません。発注側の視点を理解し、伝わる構成に近づけるための考え方を扱います。通過するかどうかは、実力・単価・案件との相性など、構成以外の要素にも左右されます。

02前提(対象読者・必要な準備)

対象読者は、直取引やエージェント経由の案件で、提案書を作成して発注側に提出する人です。代理店経由の実務者でも、企画提案を求められる案件では参考になります。

案件を獲得するチャネルごとの違いは『Webマーケター案件獲得、直取引・代理店・エージェントの使い分け』で整理しています。提案書の作り込みが特に重要になるのは、直取引とエージェント経由の案件です。直取引か代理店かをまだ迷っている場合は『直取引と代理店、Webマーケター案件はどちらを選ぶか』も参考にしてください。

提案書を書く前提として、応募したい案件の概要と、自分が取り組んだ実務や学習の実績を言語化できていることが必要です。実績がまだ少ない場合でも、学習の過程で行った判断や工夫を材料にできます。

この記事では、提案書のひな形そのものではなく、発注側の評価観点に沿った情報の配置の考え方を扱います。業種ごとの文例や、書式の細部には踏み込みません。

03手順1|発注側が提案書のどこを見ているかを理解する

発注側の評価観点と提案書の構成要素の対応 提案書の5つのブロック(課題整理・施策提案・体制と進行・費用提示・文章全体)が、発注側の5つの評価観点(課題理解力・実行力と再現性・進行管理力・費用の妥当性・コミュニケーション適性)にそれぞれ対応することを示す図。 発注側は提案書のどこを評価しているか 提案書の構成要素と、発注側の評価観点の対応関係 提案書のブロック 発注側の評価観点 ①課題整理 課題理解力 ②施策提案 実行力・再現性 ③体制・進行 進行管理力 ④費用提示 費用の妥当性 ⑤文章全体の分かりやすさ コミュニケーション適性
発注側の評価観点と提案書の構成要素の対応

提案書を読む発注側は、主に5つの観点を確認しています。

  • 課題理解力:自社の課題を正しく捉えているか
  • 実行力:過去の実務や学習から推測できる遂行力
  • 進行管理力:納期や報告の体制が分かるか
  • 費用の妥当性:金額が相場感とズレていないか
  • コミュニケーション適性:文章そのものの分かりやすさ

文章の分かりやすさは、単なる印象評価ではありません。案件の多くは、契約後も文章でのやり取りが中心になります。提案書の文章そのものが、コミュニケーション能力の証拠として読まれていると考えてください。

WEBMARKSでは、現役のWebマーケターが応募前の提案書を添削する取り組みを行っています。第三者の視点で確認してもらうと、自分では気づきにくい伝わりにくさに気づけます。

04手順2|課題整理を発注側の言葉で言語化する

課題整理の質は、提案書全体の説得力を左右します。発注側からのヒアリングで得た情報を、自分の言葉に置き換える前に、発注側が実際に使っていた言葉のまま書き起こすことが出発点になります。

聞き取った内容をどう整理するかは『初回商談で聞くべきこと、Webマーケターのヒアリング項目』で扱っています。ヒアリングの精度が、提案書の課題整理の精度に直結します。

実績の段階によって厚く書くブロックが変わる比較 実績が少ない段階では課題整理と施策提案(仮説)を丁寧に書き、実績がある段階では実行内容・結果を厚く書くという、提案書のブロックごとの力点の違いを示す比較表。 実績の段階で変わる、厚く書くブロック 同じ4ブロックでも、実績の段階によって力点が変わる ブロック 実績が少ない段階 実績がある段階 課題整理 施策提案(仮説) 実行内容・結果 体制・費用 丁寧に書く 丁寧に書く 学習成果で補う 標準的に書く 簡潔でよい 簡潔でよい 厚く書く 標準的に書く
ヒアリングから提案書提出までの情報の流れ(時間軸)

商談で聞いた内容は、時間が経つほど言葉の細部が薄れていきます。記憶が新しいうちに整理し、構成に配置してから提出するまでの流れを、あらかじめ想定しておくと作業が滞りにくくなります。

課題整理では、事実と推測を分けて書くことも大切です。発注側から聞いた事実と、自分がそこから推測した仮説を混ぜて書くと、根拠の薄い提案に見えてしまいます。

05手順3|施策提案を「なぜ」から書く

施策提案の書き方は、転職用ポートフォリオで根拠を示す考え方と共通する部分があります。課題、仮説、実行内容、想定する検証方法という順で書くと、判断の筋道が伝わりやすくなります。詳しい整理の仕方は『施策の根拠をどう見せるか、Webマーケター転職のポートフォリオ術』でも扱っています。

ヒアリングから提案書提出までの情報の流れ 初回商談でのヒアリングから、情報整理、提案書の構成への配置、提出までの4段階を時間軸で示し、各段階のおおよその時間の目安を添えた図。 ヒアリングから提出までの情報の流れ 聞いた内容を、どのくらいの時間軸で提案書に落とし込むか 1 2 3 4 ヒアリング 情報整理 構成に配置 提出 商談当日 当日〜翌日 提出前 提出当日 記憶が新しいうちに整理する 商談から時間が空くほど、発注側が使っていた言葉や 課題の細部が薄れやすくなります
実績の段階によって厚く書くブロックが変わる比較(実績が少ない段階/実績がある段階)

実績がまだ少ない段階では、課題整理と仮説の説明を厚く書くほうが効果的です。実行力そのものを示す材料が乏しい分、考え方の筋道で信頼を補う必要があるためです。

実績がある段階では、過去の実行内容と結果を中心に書くほうが効果的です。同じ4つのブロックでも、実績の段階によって力点を変える書き方が現実的です。

06手順4|体制と進行管理を明記する

体制の説明では、稼働できる時間帯、報告の頻度、連絡手段、納期に対する考え方を具体的に書きます。曖昧なまま進めると、契約後に認識違いが起きやすくなります。

エージェント経由や直取引の案件は、在宅で完結するものが少なくありません。WEBMARKSの卒業生データでは、案件獲得者の8割が在宅ワーク対応の案件を得ています。対象は2020年から2025年の卒業生データです。フルリモートまたはリモート可に該当する割合は81.5%で、該当件数は31/38件です(出典: WEBMARKS社内実績集計)。

稼働場所を問わない案件が一定数あるからこそ、提案書には報告のタイミングや連絡手段を具体的に書いておくと、発注側にとっての安心材料になります。

07手順5|費用と条件を明確に提示する

金額を提示するときは、数字だけでなく、その金額の根拠も一言添えると、発注側が納得しやすくなります。想定する工数や、対応範囲の線引きを併記する書き方が実務的です。

契約形態や支払いサイトなど、条件面の確認事項も提案書の中で明示しておくと、後の認識違いを防げます。税務上の扱いや契約の細部は案件ごとに異なるため、疑問点は発注側や専門家に個別に確認してください。

08手順6|架空案件で4ブロックを埋めてみる(提案書サンプル)

ここまでの考え方を、架空の案件に当てはめてみます。次に示すのはすべて架空の例です。実在する企業ではありません。

架空の案件として、地方で学習塾を運営する「株式会社サンプル学習塾」から、新規入塾者を増やしたいという相談を受けた場面を想定します。

①課題整理(架空の例)

ヒアリングでは、開校から10年が経過し、近隣に大手学習塾チェーンが新規出店したことで、今年度の新規入塾者数が前年から2割減少しているとのことでした。 貴社サイトを拝見したところ、Googleビジネスプロフィールの口コミへの返信が1件も無く、対応教科・料金・時間割といった基本情報もサイト内の複数ページに分散していました。 検討中の保護者が知りたい情報にすぐたどり着けない状態が、比較検討の段階での離脱を招いている可能性があると考えます。

②施策提案(架空の例)

課題1:情報が分散し、比較検討中の保護者が離脱しやすい 仮説:料金・時間割・合格実績を1ページに集約したLPを作成すれば、比較検討中の離脱を減らせると考えます。 実行内容:既存サイトとは別に、入塾検討者向けのLPを1本制作します。 検証方法:LP経由の資料請求数を、公開前後で比較します。 課題2:口コミへの返信が無く、信頼感が伝わりにくい 仮説:口コミへの返信を再開すれば、検討段階での信頼感が高まると考えます。 実行内容:過去の未返信口コミへの返信文面を作成し、以降は月2回のペースで返信します。 検証方法:口コミ経由の問い合わせ数を、3ヶ月ごとに確認します。

③体制と進行管理(架空の例)

稼働時間帯:平日10時〜18時(火曜定休) 報告頻度:週1回、金曜17時までにチャットで進捗を共有します。 連絡手段:Chatwork(貴社のご利用ツールに合わせます)。 納期:LP制作は契約から4週間、口コミ返信代行は契約翌週から着手します。

④費用と条件(架空の例)

LP制作費:150,000円(ヒアリング・構成・デザイン・実装を含む) 口コミ返信代行:月額20,000円(月2回の返信、想定稼働3時間) お支払い条件:契約書締結後、着手金50%、納品後に残額をお支払いいただく形を想定しています。 上記は初回のご提案であり、詳細はお打ち合わせのうえで調整いたします。

このサンプルの①は課題理解力、②は実行力、③は進行管理力、④は費用の妥当性という、手順1で挙げた評価観点にそれぞれ対応しています。ブロックごとに埋める内容を意識すると、発注側が見ている観点を1つも欠かさずに提案書へ反映できます。

09つまずきポイント(失敗例つき)

提案書作りでよくあるつまずきを整理します。

1つ目は、実行内容だけを並べ、課題整理を省く型です。「これができます」の列挙で終わると、なぜその提案が必要かが伝わりません。

2つ目は、費用の説明だけを厚く書き、体制や進行管理の説明が薄い型です。金額の妥当性は理解できても、任せて大丈夫かという不安が残ります。

3つ目は、専門用語を発注側の言葉に翻訳しないまま出す型です。発注側がWebマーケティングの専門用語に詳しいとは限りません。

4つ目は、単価だけを提示し、契約形態や支払いサイトなどの条件面を省略する型です。金額の合意はできても、契約直前で条件面の認識違いが表面化しやすくなります。

5つ目は、テンプレートをそのまま使い回し、案件固有の課題整理をしない型です。汎用的な文章は、その案件に向けて書かれたものだと伝わりにくくなります。

10完了の確認方法(できたかどうかの判断基準)

提案書ができたかどうかは、課題整理、施策提案、体制・進行、費用提示の4ブロックすべてに、具体的な一文以上の説明があるかで確認できます。

4ブロックのうちどれか1つでも一般論だけで終わっている場合は、その案件向けに書き直せていない状態です。特に課題整理が薄いケースが目立つため、優先して見直してください。

もう一つの確認方法は、Webマーケティングに詳しくない第三者に読んでもらい、何を頼まれている提案か説明できるか聞くことです。「良さそうだけど、何が課題だったか分からない」という感想が出た場合は、課題整理の書き方を見直すサインです。

WEBMARKSの卒業生データでは、案件獲得者の70%以上が2案件以上を獲得しています。対象は2020年から2025年の案件獲得データです(出典: WEBMARKS社内実績集計)。1件目の提案で根拠の示し方を身につけると、2件目以降の提案書作りが速くなる傾向がうかがえます。

11FAQ

提案書に決まったテンプレートはありますか

決まったテンプレートはありません。案件の性質や発注側との関係性によって、必要な情報の分量は変わります。この記事で扱った5つの観点を満たしていれば、形式は自由に組み立てて構いません。

実績がほとんど無い場合、提案書は出せませんか

出せます。実績が少ない段階では、実行力そのものより、課題整理と仮説の説明を厚く書くことで補えます。学習過程で行った判断や工夫も、材料として使えます。

費用は安く提示したほうが通過しやすいですか

安さだけで通過が決まるわけではありません。金額の妥当性は評価観点の1つですが、課題理解力や実行力とあわせて総合的に判断されます。安さを強調するより、金額の根拠を丁寧に説明するほうが効果的です。

代理店経由の案件でも提案書は必要ですか

案件によります。代理店が窓口となって進行管理を担うケースでは、簡易な自己紹介資料で足りることもあります。企画提案そのものを求められる案件では、この記事の考え方が参考になります。

提案書の長さはどれくらいが適切ですか

決まった長さの目安はありません。長さより、5つの評価観点に対応する情報が過不足なく書かれているかを優先してください。冗長な説明は、かえって要点を埋もれさせます。

提案が通らなかった場合、どこを振り返ればいいですか

まず、課題整理・施策提案・体制・費用の4ブロックのうち、どれが薄かったかを確認してください。特定の1ブロックだけが弱いケースが多く、そこを補うだけで印象が変わることがあります。

初めての提案書は、どう練習すればいいですか

架空の案件を題材に、いちど提案書を書いてみる方法があります。実案件かどうかより、課題から費用提示までの筋道を組み立てる練習として有効です。架空案件の扱い方は『施策の根拠をどう見せるか、Webマーケター転職のポートフォリオ術』でも触れています。