01この記事でできるようになること

初回に決めた単価から、値上げ交渉を「いつ切り出すか」を自分で判断できるようになります。契約更新・業務範囲の拡大・複数案件の状況という3つの材料から、タイミングを整理する手順を扱います。

値上げ交渉で「いくら」を求めるかという金額そのものの相場データは、この記事では扱いません。『Webマーケターの単価交渉、実額の目安と自分で記録する方法』で、時給や月収の集計値を確認できます。

02前提(対象読者・必要な準備)

対象読者は、少なくとも1件以上のクライアントと継続的なやり取りがある副業Webマーケターです。まだ初案件を獲得できていない場合は、先に『Webマーケター副業、初案件を獲得するまでの実務ロードマップ』を読むことをおすすめします。

準備するものは、契約を開始した時期のメモ、契約時に合意した業務範囲の記録、そして受注してから今までに業務範囲がどう変化したかを振り返れる材料です。これらが無い場合は、まず記憶をたどって簡単に書き出すところから始めてください。

03手順1|契約の更新や区切りのタイミングを把握する

多くの継続的な業務委託には、契約期間や更新のタイミングがあります。まずは自分が受けている案件について、契約書やこれまでのやり取りを見返し、更新の時期がいつなのかを確認してください。

継続的な業務委託には、単発の契約とは異なるルールが関わる場合があります。フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、一定期間以上続く業務委託について、契約内容を書面等で明示することが求められています。契約を打ち切る際にも一定の対応を求める規定が設けられています(参考: 公正取引委員会、e-Gov法令検索)。具体的な適用条件や期間は、公正取引委員会またはe-Gov法令検索の公式情報でご確認ください。

値上げ交渉を検討する4つのタイミングシグナル 値上げ交渉を検討するきっかけになる4つのシグナル、契約更新前・業務範囲の拡大・落ち着いた時期・複数案件の状況整理を並べた全体像の図。金額そのものの相場は扱わない。 値上げ交渉を検討する4つのタイミングシグナル 金額そのものの相場は扱いません(別記事で確認できます) シグナル1 契約更新の 少し前 検討する時間を 相手に確保 シグナル2 業務範囲の 拡大 当初の合意との 差を記録 シグナル3 繁忙期を 避けた時期 確定申告期の 振り返りも一例 シグナル4 複数案件の 状況整理 優先順位を つけて着手 4つのうち複数が重なった時点が、交渉を検討する目安になります
値上げ交渉を検討する4つのタイミングシグナル(契約更新前・業務範囲拡大・落ち着いた時期・複数案件の状況整理)の全体像

契約更新の直前に急に切り出すより、更新の少し前から準備を始める方が、相手にとっても検討する時間を確保しやすくなります。更新のタイミングが分からない場合は、契約書に記載が無いか、発注担当者に確認してみてください。

04手順2|業務範囲が当初の合意より広がっていないかを確認する

最初に契約したときの業務範囲と、実際に今こなしている業務を比較してください。依頼が少しずつ増え、当初の合意より対応範囲が広がっているケースは珍しくありません。

契約開始から更新までの時間軸と確認ポイント 契約開始から更新までの時間軸に沿って、業務範囲の確認・複数案件の状況整理・更新前の交渉準備という確認ポイントをどこで行うかを示す図。 契約開始から更新までの時間軸と確認ポイント 更新の少し前から準備を始めるのが目安です 契約開始 業務範囲を 記録しておく 中間期 範囲の拡大や 複数案件の状況を確認 更新の少し前 材料を整理し 交渉を切り出す 継続的な業務委託には契約更新のルールが関わる場合があります
契約開始から更新までの時間軸に沿って、確認すべきポイント(契約更新時期・業務範囲・複数案件の状況)を配置した図

業務範囲の拡大は、値上げ交渉の材料になります。増えた業務を具体的に書き出し、いつからその対応が加わったかを記録しておくと、交渉のときにそのまま材料として使えます。

範囲が変わっていない場合でも、成果や実績の積み上がりを材料にする方法があります。ただし、この記事では「いつ切り出すか」に焦点を当てるため、伝え方の詳細は別の記事で扱います。

05手順3|自分の状況を、複数案件の有無と照らして確認する

WEBMARKSの集計では、案件獲得者の70%以上が2案件以上を獲得しています。対象期間は2020年から2025年です(出典: 案件獲得データの集計)。

複数の案件を並行して抱えている状況は、値上げ交渉を切り出しやすい材料の1つになり得ます。他のクライアントとの取引があることで、1社との交渉に伴う不安を抑えやすくなるためです。

一方で、複数案件のタイミングが重なっている時期に、すべてのクライアントへ同時に交渉を切り出すと、対応の負荷が急に増えます。優先順位をつけ、時期をずらして進める方が現実的です。

複数案件があるときの優先順位づけ(架空の例)

複数のクライアントと同時に取引がある場合、どの案件から交渉を進めるかを決める必要があります。以下は架空の例で、実在の企業ではありません。

案件(架空)契約更新までの期間業務範囲の拡大関係の安定度
A社1か月後あり高い
B社5か月後なし中程度
C社2か月後あり中程度

この例では、契約更新が近く、業務範囲の拡大という材料もそろっているA社から着手する判断になります。C社は更新までにまだ余裕がありますが、業務範囲が広がっている事実は先に記録しておきます。更新の1〜2か月前を目安に、準備を始めるとよいでしょう。B社は更新までの期間が長く、材料も乏しいため、今回は優先順位を下げて様子を見ます。

優先順位を決める軸は、契約更新までの期間と、業務範囲の拡大や成果といった材料がそろっているかどうかの2つです。両方がそろっている案件から着手すると、限られた時間を有効に使えます。材料が乏しい案件は無理に急がず、記録を積み上げる期間に充てる考え方もあります。

06手順4|切り出すタイミングと伝え方の型を選ぶ

タイミングの候補が複数出てきたら、その中から実際に切り出す時期を選びます。契約更新の少し前、繁忙期を避けた落ち着いた時期、業務範囲拡大が明確になった直後などが、よく選ばれる型です。

確定申告の時期は、1年間の受注状況を振り返る自然な区切りになります。国税庁が案内する申告期間の前後で、値上げ交渉の材料を整理する人もいます(出典: 国税庁)。具体的な申告期間は年によって変わるため、最新の情報でご確認ください。

伝え方は、口頭よりも書面やメッセージで要点を残せる形が実務では選ばれやすい傾向にあります。金額の伝え方や交渉の進め方そのものは、この記事の範囲を超えるため、別の記事で扱います。

実際の切り出し文例(架空の例)

ここからは架空の例です。実在の企業名・個人名ではありません。自分の状況に置き換えて使ってください。

パターン1|契約更新のタイミングで切り出す(メール文面)

件名:契約更新のご相談 ○○様 いつもお世話になっております。△△です。 来月に契約更新の時期を迎えるにあたり、ご相談したいことがございます。 契約開始から半年が経ち、当初の業務範囲に加えて□□の対応も継続して担当させていただいております。 更新のタイミングで、単価について改めてご相談させていただけますでしょうか。 ご都合のよい日時を教えていただけますと幸いです。

契約更新という区切りを理由にしているため、相手にとっても検討しやすい切り出し方です。業務範囲が増えた事実を一文添えることで、値上げの根拠を自然に示せます。

パターン2|業務範囲の拡大を材料に切り出す(チャットメッセージ)

○○さん、お疲れ様です。 今月からお願いいただいている□□の作業について、来月以降の単価に反映させていただくことは可能でしょうか。 契約時の業務範囲と比べて、対応する項目が増えている状況です。 お手すきの際に、一度お時間をいただけますと助かります。

チャットは相手との距離が近い分、要件を先に一文で示す方が伝わりやすくなります。理由を事実として述べ、感情的な表現を避けている点がポイントです。

パターン3|複数案件が安定してきた時期に、丁寧に切り出す

○○様 お世話になっております。 おかげさまで□□の業務を安定してお任せいただけるようになり、感謝しております。 つきましては、次回の契約更新にあわせて単価の見直しについてご相談させていただきたく、ご連絡いたしました。 ご検討のお時間をいただけますと幸いです。

このパターンは、他社との取引が安定し、心理的な余裕がある時期に向いています。感謝の言葉を先に置くことで、一方的な要求という印象を避けやすくなります。

3パターンに共通するのは、理由を先に事実として示すこと、金額そのものは本文に書かず面談や返信で詰めること、返信の期限を強く迫らないことの3点です。金額の伝え方や交渉の進め方そのものは、『副業Webマーケター、単発案件を継続契約へ切り替える提案の仕方』で扱います。

どのパターンを使う場合も、送信した日付と相手の反応を簡単にメモしておくと役立ちます。今回の交渉が見送りになった場合でも、次に切り出すタイミングを判断する材料として使えるためです。

07つまずきポイント(失敗例つき)

値上げ交渉のタイミングで、繰り返し見られるつまずき方を整理します。

  • 契約更新の直前に急に切り出し、相手が検討する時間を確保できずに見送られる
  • 業務範囲の拡大を記録しておらず、交渉のときに具体的な材料を示せない
  • 複数クライアントへの交渉タイミングが重なり、対応が追いつかなくなる
  • 繁忙期や納期直前に切り出してしまい、相手の心証を損ねる
  • 「そろそろ」という漠然とした感覚だけで切り出し、材料が薄いまま交渉して見送られる

これらの多くは、タイミングを事前に整理せず、思いついたときに動いてしまうことで起きます。手順1から3で洗い出した材料を、交渉に踏み切る前に一度書き出しておくことが有効です。

08完了の確認方法(できたかどうかの判断基準)

この記事の手順が完了したかどうかは、次の3点で確認できます。契約更新や区切りの時期を把握できたか、業務範囲の拡大や成果を材料として書き出せたか、そして実際に切り出す時期と相手を決められたかです。

交渉が通った場合と通らなかった場合の分岐 値上げ交渉を切り出した結果、通った場合と通らなかった場合で、その後にとる行動がどう分かれるかを示す条件分岐の図。 交渉が通った場合/通らなかった場合の分岐 見送られても、そこで終わりではありません 交渉を切り出す 通った 新しい単価で 契約を更新 次回の見直し時期もメモ 通らなかった 時期を改めて 再交渉、または 他クライアントを優先
交渉した結果が通った場合と通らなかった場合の分岐、次にとる行動の整理

3点がそろっていれば、あとは実際に交渉に進む段階です。複数案件の管理方法は『副業Webマーケター、複数クライアントを並行管理する方法』をあわせてご確認ください。

交渉が通らなかった場合も、それで終わりではありません。時期を改めて再交渉する、他のクライアントとの取引を先に伸ばす、といった選択肢が残ります。

09FAQ

値上げ交渉は、案件を始めてどれくらいで切り出していいですか

一律の期間はありません。契約更新のタイミングや業務範囲の変化など、この記事で扱った材料がそろっているかどうかで判断してください。

初回の単価が低すぎたと感じています。すぐに交渉していいですか

すぐに交渉すること自体は可能ですが、材料が薄いまま切り出すと見送られやすくなります。業務範囲の変化や成果など、伝えられる材料を先に整理することをおすすめします。

繁忙期に切り出しても大丈夫ですか

避けた方が無難です。相手が検討する余裕のない時期に切り出すと、心証を損ねたり十分に検討してもらえなかったりする可能性があります。

複数のクライアントに同時に交渉を切り出してもいいですか

対応の負荷を考えると、時期をずらして進める方が現実的です。優先順位をつけ、1社ずつ進める人が多い傾向にあります。

契約更新のタイミングが分からない場合はどうすればいいですか

契約書に記載が無いか確認し、それでも分からない場合は発注担当者に直接確認してください。曖昧なまま交渉時期を決めるより、事前に確認しておく方が安全です。

業務範囲が特に広がっていない場合、交渉材料はありますか

範囲が変わっていなくても、成果や実績の積み上がりを材料にする方法があります。伝え方の詳細は別の記事で扱います。

交渉が通らなかったら、その後どうなりますか

交渉が通らなかったからといって契約が終わるとは限りません。時期を改めて再交渉する、他のクライアントとの取引を伸ばすなど、複数の選択肢があります。

契約解除の通知に関するルールは、副業Webマーケターにも関係しますか

継続的な業務委託の解除や更新拒否については、一定の要件のもとでルールが定められています。具体的な適用条件は、公正取引委員会やe-Gov法令検索の公式情報でご確認ください。